医薬品マーケティングにおけるオムニチャネルを考える-Part3

さて、ここ2週、医薬品マーケティング・コミュニケーションにおけるオムニチャネル化を取り上げています。

医薬品マーケティング・コミュニケーションのオムニチャネル化とは、

「医薬品の認知から採用・処方に至る全てのプロセスにおいて、医師を起点にして、あらゆる顧客接点を連携させることで、どのコミュニケーション・チャネルを経由しても、シームレスな環境を整えること」

であると定義しました。

その実現には「コミュニケーション・デザインの再構築」が大切で

・現状の接点のどこに問題があるのか?
・新たにどこで医師と接点を持てるのか?
・手段をうまく組み合わせることはできないか?

などを考えるステップ自体が戦略を考え直す機会になり得えることをお伝えしました。

このテーマで良くある質問は「『マルチ』と『オムニ』は、一体どう違うのか?」です。今回は、その点について取り上げます。

マルチとオムニの違いを考えるポイントは

・企業起点で、情報提供を考えるか?
・医師起点で、情報提供を考えるか?

の違いです。

具体的に考えて見ましょう。

よくあるパターンは、

・重要な顧客はMRが訪問してカバー
・それ以外、MRが訪問できないので、ウェブマーケティングで対応
・そして、MRでもウェブマーケティングでも対応できないセグメントは、医学系の商業誌や新聞などの紙媒体でリーチする

といったようにセグメント別で、コミュニケーション方法が違うケースです。人(MR)、IT、紙といった3つのチャネルを使って医師にアプローチしています。

これはオムニでしょうか?マルチでしょうか?
これはマルチです。

このパターンの場合、

・自社の資源にあわせて、顧客である医師のセグメンテーションを行う
・各セグメントに対して、自社の経営資源やアプローチできる手段から最適と思われるコミュニケーションを選択
・しかし、各セグメントと各コミュニケーション手段は、関連性やつながりは意識されていない

つまり、企業起点で、自社の経営資源や手段の選択肢から最適化を図ったものです。

これが、セグメント別のマルチチャネルのコミュニケーションで、現在、多くの
製薬企業様で実施している医薬品マーケティングです。

オムニのパターンは次のようなケースです。

・A医師は、地方の市中病院に勤務する呼吸器の専門医。

・地域の交通事情の関係で、B製薬のMRの訪問は2ヶ月に1回。

・今抱えている患者さんに製品Xの投与を考えているが、確認したいことがあるのでB製薬のウェブサイトの機能を使って、MRにメールで連絡。しかし、すぐに対応できないので、コールセンターへ電話での説明を依頼。もちろん、ウェブサイトからフリーダイヤルで、ダイレクトに学術知識のあるオペレータへつながり、問題が解決。

・夜間は、自分の専門領域の情報をB製薬のウェブサイトでチェック。

・また、月1回、B製薬から製品の新情報やトピックスがDMで送られ、必要があればいつでも学術知識のあるオペレータとコンタクトが可能な状態になっている。

・A医師とB製薬のコミュニケーションの接点で起こった情報やウェブ閲覧履歴はすべて一元管理されていて、担当MRほかアクセス権限のある社員などが閲覧可能になっている。

A医師とB製薬はいくつかのコミュニケーション手段でつながっていて、そのコンテクストがMRの共有化された状態になっています。このケースから、オムニチャネルは顧客である医師が起点になっていることがおわかり頂けると思います。

このように、マルチチャネルとオムニチャネルの違いは、コミュニケーションを考える際の根本思想にあります。

医薬品マーケティング・コミュニケーションにオムニチャネル化は一朝一夕にできることではありません。また、システム投資や時間も要するので、慎重な検討も必要だと思います。

しかし、おそらく近い将来、この考え方で取り組まざるを得ないのは本テーマの「背景」でお示ししたとおりです。少なくとも、医師の情報入手プロセスの見直しに取り組むことは必要ではないでしょうか。

次回は、医薬品マーケティング・コミュニケーションのオムニチャネル化の取り組みの全体プロセスを考えてみたいと思います。