「Balance of Power 攻防の中の均衡~ジェネリックvs.先発企業」 渡辺 敏一

世界最大のジェネリック医薬品企業Teva Pharmaceutical Industriesの売上5000億円超、一方日本国内のジェネリック医薬品の総市場が約3300億円、国内のジェネリック大手企業が250―300億円。このように現時点では、米国と日本のジェネリック医薬品の規模、浸透度には、大きな差があります。しかしながら、医療費削減政策として、昨年4月に「後発医薬品調剤加算」「後発医薬品情報提供料」が新設され、ジェネリック医薬品使用促進が進みつつあります。また、ジェネリック医薬品企業は、各社がテレビや新聞などのマスメディアにより、医療消費者への浸透や普及を目的にDTC(Direct To Consumer)を活発化させています。さらには、インドのザイダスグループの国内参入、Teva社日本法人の活動の活発化などのニュースなども報じられています。

日本の医薬品市場では、ブランド医薬品企業間の競争やM&A、ブランド医薬品企業対国内ジェネリック医薬品企業の競争や間の競争に加えて、近い将来、グローバルジェネリック医薬品企業の参入の活発化に伴う国内企業との競争やM&Aなどが起こりうると考えられます。こうした変化により医薬品マーケティングのあり方も大きな影響を受けることが予想されます。

本書は、こうしたジェネリックが台頭しつつあり、また変革期を迎えている医薬品市場において、ブランド医薬品企業及びジェネリック医薬品企業がどのように対処すべきかについて示唆や、米国市場におけるジェネリック医薬品の浸透・普及の足跡を紹介するとともに、長年医薬品業界に携わってきた著者の主張や「ブランド医薬品企業とジェネリック医薬品企業のバランスの均衡した健全な競争により双方が発展し、結果として国民の健康やQOL向上に寄与して欲しい」という著者の想いも記された書籍です。

私自身、ジェネリック医薬品市場に関しては、漠然としか知識がありませんでしたが、米国におけるジェネリック医薬品市場拡大の背景、歴史や医療政策、医療保険制度なども詳述されており、米国ジェネリック医薬品市場の構造や趨勢が非常によく理解できました。ブランド医薬品企業の方々にとってもジェネリック医薬品企業にとっても、今後の大きな環境変化を見据えた経営戦略の方向性を考える上で、大いに参考になる書籍であると思います。
特に、第6章「ブランド vs. ジェネリックの攻防」はブランド医薬品企業がプロダクトライフサイクルマネジメントの観点からジェネリック医薬品対策のためのいくつかの具体的な手法が紹介されており、これはブランド医薬品企業にとって参考になる点が多く、第8章「米国ジェネリック企業の販売戦略」では、米国の事例の紹介を通じて、国内ジェネリック医薬品企業もジェネリック医薬品マーケティングを考える上で参考なる点もいくつかあります。

先般、医薬品企業法務研究会の国際問題研究部会において、ジェネリック医薬品の普及と課題について研究報告をまとめられ、今後、国内ブランド医薬品企業、外資系ジェネリック医薬品企業、異業種からの市場参入が本格化するとの予想もありましたが、変化が目の前に迫ってきた今、本書を通じて米国のジェネリック医薬品の普及の足跡を学ぶことで、今後の戦略検討のヒントを得られるのではないでしょうか。

本書の全貌を理解するに役立つ「序論」の概要と「目次」を下記に紹介します。

<序論>
日米の医療・医薬品業界を概観するとともに、米国政府に強力なジェネリック使用促進策の中でも、ブランド医薬品企業とジェネリック医薬品企業がともに熾烈な競争を続けながらも、適切な「Balance of Power」を構築することで、ともに成長、発展していることを挙げ、そのケースを学ぶことで日本における両業界も相互に成長・発展することができる。

<第1章 医療費抑制>
<第2章 世界市場の潮流:グローバライゼーション>
<第3章 医薬品の使命>
<第4章 ジェネリックの台頭>
<第5章 ジェネリック使用促進と政府の役割>
<第6章 ブランド vs. ジェネリックの攻防>
<第7章 ジェネリック使用強制とインセンティブ>
<第8章 米国ジェネリック企業の販売戦略>
<第9章 ジェネリック批判>
<第10章 ブランド企業のジェネリック参入>
<第11章 新時代のジェネリック企業へ>

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